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公益財団法人 国際通貨研究所(IIMA)

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通貨・金融のABC

  国際金融の用語解説集です。

アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)

1997年に発生したアジア通貨危機の要因として、①ドルペッグ制(当時タイ、マレーシア、インドネシア、韓国等で採用)による現地通貨の過大評価、②「ダブル・ミスマッチ」(外貨建ての短期借入資金を自国通貨で長期運用するという、通貨と期間のミスマッチ)、③債券市場をはじめとするアジア各国の未成熟な金融システム等が挙げられます。これらの問題の解決および通貨・金融危機の再発防止のため、地域金融協力の重要性が認識されるようになりました。その地域金融協力の一環として、2003年8月、ASEAN+3(日中韓)財務大臣会議において合意されたのが「アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)」です。
ABMIは、アジア域内における資金調達を域外に大きく依存することから脱却し、アジアにおける貯蓄を域内の投資につなげるべく、効率的で流動性の高い債券市場を育成する、という取り組みです。
アジア債券市場の整備という最終目標に向け、ABMIは定期的にロードマップを改訂し、取り組み課題を見直してきました。これまでの主な成果としては、アジア開発銀行(ADB)、世界銀行等の国際機関による現地通貨建て債券の発行、「アジア・ボンド・オンライン」の開設、信用保証投資ファシリティ(CGIF)の設立や、ASEAN+3債券市場フォーラム(ABMF)の設立等が挙げられます。


アジア通貨危機

1997年7月より、タイを震源としてアジア各国に伝播した自国通貨の大幅な下落および経済危機を「アジア通貨危機」と呼びます。
1997年5月中旬、ヘッジファンド等の機関投資家によるタイ・バーツの大量の空売りを受け、タイ中央銀行はドルペッグ制の維持(バーツ防衛)のためバーツ買いの為替介入を実施します。しかし外貨準備のドルが枯渇し、7月2日、ドルペッグ制から変動相場制(管理フロート制)への移行を強いられた結果、バーツは対ドル相場で急落してしまいます。
バーツが一斉に売られたのは、米国のドル高政策に連動してバーツも高くなり(ドルペッグ制のため)、タイの輸出が伸び悩み始めてもさらにバーツ高が進行したことに対して、投資家から過大評価ではないかと疑われたためです。
通貨の急落は、同じくドルペッグ制を採用していたマレーシアやインドネシア、韓国にも波及しました。タイ、インドネシア、韓国はIMF(国際通貨基金)や世界銀行、アジア開発銀行等の支援を受けることになります。支援の条件としてIMFが課した緊縮財政や高金利政策の結果、これらの国々はマイナス成長に陥り、タイとインドネシアでは政権交代に至りました。IMFによる改革案の妥当性は疑問視されたものの、これらの国々において低インフレによる純輸出の拡大等により、1999年にプラス成長を回復しました。
危機後、アジアでは再発防止のための地域金融協力の動きが活発化しました。


オイルマネーと原油取引のドル建て表示

「オイルマネー」という言葉にそもそも厳密な定義は存在しませんが、一般的に、産油国が原油輸出によって得た資金のことを広義のオイルマネーと呼び、そのうち産油国政府による経常的な支出や開発投資などを差し引いて残った資金、つまり外国などへの投資が可能な資金のことを狭義のオイルマネーと呼んでいます。
また、日本では「オイルマネー」ですが、欧米では主に「ペトロダラー(Petrodollar)」と呼んでいます。ダラーとはドルのことであり、原油取引がドル建てで行われることに由来します。それでは原油取引はなぜドル建てなのでしょうか。
実は、原油取引がドル建てでなければならないという国際的な取り決めのようなものはありません。原油取引の歴史的な経緯を背景に、慣習上、ドル建てでの取引となっているだけなのです。歴史的な背景としては、①1960年代までは米国を筆頭としたメジャーズ(総合石油会社)が原油取引を支配していたこと、②80年代前半に原油取引のスポット取引が拡大するとともに、価格変動のリスク回避のために先物取引も始まり、その先物市場に主として米国市場が利用されたこと、などがあげられます。また、③世界最大の石油消費国が米国であることも要因と考えられます。


欧州安定メカニズム(ESM)

2009年12月にギリシャで発覚した多額の財政赤字を発端に、アイルランドやポルトガル等にも金融不安が波及し、「欧州債務危機」が発生しました。このとき財政危機に陥ったユーロ加盟国を対象に資金支援を実施するため、欧州連合(EU)は2010年6月、条約に根拠をもたない「時限的」な危機対応メカニズムとして、欧州金融安定ファシリティ(EFSF)を設立しました。その後「恒久的」な危機対応メカニズムの必要性も高まったことから、2012年10月、条約(ESM条約)に基づき、欧州安定メカニズム(ESM)が設立されました。
ESMはEFSFの後継として、2013年7月よりその業務を引き継ぎました。同時にEFSFは支援プログラムの新規受付を停止しましたが、EFSF時代に実施されたプログラムの支援金がすべて回収されるまで解体されないため、現在もESMと併存しています。
ESMの主な目的は、①財政危機に陥ったユーロ加盟国や銀行への融資、②ユーロ圏の金融安定化です。加盟国はユーロを導入する国々と同様で、現在19ヵ国にのぼります。ESMの融資可能額は最大5,000億ユーロで、その原資はEU全体に対するESM加盟各国の人口やGDPの割合から算出された拠出金の払い込みです。負担割合が大きい主な国はドイツ、フランス、イタリアです。
ESMの金融支援活動は、EU全体ではなく、あくまでユーロ圏の金融システムが脅かされた場合にのみ実施されます。また、実施にあたっては国際通貨基金(IMF)と「緊密に協力する」ことが求められ、過去に機動性の低下が問題視されたことから、「欧州版IMF」設立の構想が浮上しています。


外貨準備の必要性

外貨準備とは、「国際通貨として認知された外貨」の準備です。
どのように作るかというと、ある途上国Aが、輸出旺盛で貿易収支が黒字だったとしましょう。この黒字と同額が投融資として海外に流出すれば、A国全体の外貨の入り払いはバランスし、為替相場も安定します。しかし、成長を見込んだ大量の資本流入があると、資本収支も黒字となります。A国の為替市場には、大量に流入する外貨を売る者が過多の状態になるわけです。
この外貨需給の偏りを最終的に吸収するのが中央銀行です。つまり中央銀行がA国通貨売り外貨買いをします。その買った外貨が中央銀行の資産として貯まる。これが外貨準備です。
外貨準備はA国が将来遭遇する様々な緊急事態に使われます。何らかのショックで突然、通常の経済取引で外貨が入ってこなくなっても、エネルギーなど最低限の物資を当面輸入するために使われます。また、海外から借りている短期資金が突然借り換えできなくなることも起こるでしょう。そんな時、為替介入の実弾にもなる外貨準備というゆとりの資産があれば安心なのです。
かつては、輸入額の3か月分の備えというのが外貨準備の目安とされました。しかし、1990年代以降、メキシコ、タイ、ロシア、ブラジルと繰り返される途上国の通貨危機のため、外貨準備の保有目的も、金融取引への備えが重視されるようになりました。短期性対外債務の額が目安となったのです。アジア通貨危機以降、アジア諸国は外貨準備を多く持つことを非常に重視しています。

                        アジア諸国の外貨準備の推移

                 >アジア諸国の外貨準備の推移

外国為替

外国為替とは、国をまたいだ商取引の決済を、現金を輸送するのではなく、銀行間の決済システムなどを使って決済することです。国内での商取引決済である内国為替との違いは、決済の中継ぎをする第三の銀行が存在することと、通貨の交換が途中で起こることです。
国内の決済は、決済相手の取引銀行が別の銀行の場合、自分の銀行と相手の銀行の間の決済は中央銀行にある両行の預金の振り替えで完了します。これに対し外国為替の場合は、お互いに別の国、別の通貨の銀行ですから、共通の中央銀行はありません。このため、両行は、お互いが預金を共通に預ける第三の銀行に振り替えの依頼をして決済が完了します。
通貨の交換があることも外国為替の特徴ですが、狭い意味でこの通貨交換のことを外国為替と呼びます。「外国為替市場」と言えば通貨の売買市場のことですし、「外国為替コスト」と言えば、売買時の相場の差から発生する費用のことを指します。また「外国為替リスク」と言えば、通貨交換時の相場の変動リスクのことです。


外国為替市場の参加者

銀行間市場(インターバンク市場)にて取引を行う銀行などの金融機関を指す「狭義の参加者」と、外国為替取引を行うすべての法人、個人を指す「広義の参加者」に区分されます。一般に外国為替市場というときには、銀行間市場を指します。
インターバンク市場の参加者は金融機関に限られ、銀行を中心に構成されています。インターバンク市場の取引は通常1百万米ドル単位で行われ、取引条件は標準化されています。決済は金融機関の間だけで行われるため、大量の取引を安全に効率的に処理できるようになっています。
インターバンク市場参加者である銀行や大手証券会社は、機関投資家、証券会社、一般事業法人、個人といった広義の参加者の取引をインターバンク市場につないで、相互に売買を行っています。例えるならば、インターバンク市場は卸売市場であり、インターバンク市場参加者が一般の個人や法人などを相手に取引する市場は小売市場です。


外国為替相場の表示方法とクロス・レート

外国為替相場の表示方法は、どちらの通貨を基準とするかにより次の2種類があります。
1つは「外国通貨建て」とよばれ、自国通貨1単位を基準に外国通貨で何単位に相当するかを表示する方式です。例えばイギリスでは、自国通貨であるポンド1単位、すなわち、1ポンドが外国通貨何単位に相当するかという形で為替相場を表示します。1ポンド=1.2758ドル、1ポンド=1.1425ユーロといった表示方法がそれです。アメリカ、ユーロ圏諸国、オーストラリアなどもこの方式で表示しています。
もう一つは「自国通貨建て」とよばれ、外国通貨1単位を基準に自国通貨で何単位に相当するかを表示する方式です。日本のように1米ドル=110円、1ユーロ=120円等と表示する方法がそれで、多くの国はこの方式を採用しています。
為替相場の表示方法をどちらにするかは、その国の慣習によるものです。

日本のように自国通貨建ての場合、注意すべき点は為替相場が動いた際の自国通貨の価値の読み方です。例えば、1ドル=100円から1ドル=110円というように自国通貨(円)の数値が上昇することは、自国通貨の価値が外国通貨(ドル)に対して低下したこと、すなわち円安(ドル高)を意味することです。逆に、1ドル=100円から1ドル=90円のように自国通貨(円)の数値が低下することは、自国通貨の価値が外国通貨(ドル)に対して上昇したこと、すなわち円高(ドル安)を意味します。

インターバンク市場では通常、対米ドルで為替相場を表示します。クロス・レートとは、異なる2通貨の対米ドル相場をもとに計算した、2通貨間の直接交換レートです。
例えば「ドルと円」および「ドルとユーロ」の為替相場が成立している時に、この2つの為替相場から「ユーロと円」の間の為替相場を計算することができます。「1ドル=90円」と「1ユーロ=1.35ドル」を計算すると(1.35×90=121.50)、クロス・レートとして「1ユーロ=121円50銭」が算出されます。


外国為替リスク

外国為替リスク(以下、為替リスク)とは、為替相場の変動によって企業や個人が保有する外貨建て資産・負債の自国通貨換算額が変化して、利益や損失が生じる不確実性のことです。為替リスクにさらされる可能性のある外貨建て資産・負債を、エクスポージャーと呼びます。為替リスクは基本的には相場の変動によるものですが、それがキャッシュフロー上現われるものなのか、あるいは短期的な変動か、それとも長期的な構造変化という時間軸上の違いで、企業が直面するリスクは以下の様な三つに分類することができます。
① 為替換算リスク
為替換算リスクは、企業の財務諸表に計上された外貨建て資産・負債の評価金額が為替相場の変動によって増減した結果、会計上の損益に影響を及ぼすリスクです。実際に取引を行って損益が確定するまでキャッシュ・フローに変化は生じませんが、企業の経営をしていく上では、企業が保有する債権・債務を各時点で正しく評価することが重要です。
② 為替取引リスク
為替取引リスクとは、為替相場の変動によって外貨建て取引の決済時の円換算金額が取引時の円換算金額から増減し、収益に影響を及ぼすリスクです。決済によって生じる為替差損益は、実際のキャッシュ・フローにも影響します。近年、海外生産を行っている企業が現地での部品調達を進めている理由も、為替取引リスクが業績に与える影響を軽減するためです。
③ 為替経済性リスク
 為替経済性リスクとは、為替相場の変動が企業の採算性や競争力の変化など、構造的変化に及ぶリスクです。


外国為替リスク管理方法

外国為替リスク(以下、為替リスク)を管理するための方法は、為替エクスポージャーを測定し、為替リスクの大きさを把握した後、(1)エクスポージャーの発生自体をコントロールし、発生したエクスポージャーを削減する手法と、(2)為替先物取引など外部より提供される市場性商品を利用して為替リスクを管理する手法に分けられます。
エクスポージャーを削減する方法として、以下4つの手法があります。
①ネッティング
一定期間において発生した債権と債務を同一企業(グループ)内で相殺し、その結果残された債権・債務の差額についてのみ資金を授受する決済方法。
②為替マリー
債権・債務自体を削減するのではなく、あくまで同一の通貨の債権と債務の決済を組み合わせることでエクスポージャーを圧縮する手法。
③リーズ・アンド・ラグズ
 外貨での支払決済の支払時期を早めたり(リーズ)、遅らせたり(ラグズ)することによって、為替エクスポージャーをコントロールする手法。
④為替のパス・スルー
大きな為替変動があった時に、企業が為替レートの変動を国内外の販売価格に転嫁させる方法。販売価格の変更には販売先の了解が必要で、実際に販売価格が変更されるまでには時間を要します。


各国の外国為替市場とその結びつき

各国の外国為替市場は為替取引が集中している都市の名前で、イギリスであればロンドン市場、アメリカであればニューヨーク市場などと呼ぶのが一般的です。東京を基点にした場合、1日の外国為替取引はニュージーランドのウェリントン市場からシドニー、東京、香港、シンガポール、そしてフランクフルト、ロンドン、さらにはニューヨークへと、時間の経過とともにその中心が移っていきます。
為替取引はパソコン、ワークステーション、その他の情報通信機器などを通し、24時間行われています。銀行にとっては24時間もの間、ずっと自己のポジションや顧客から委託されている売買の注文を管理していかなければなりません。このため大手の銀行では、外国為替取引を1つの拠点において24時間体制で集中管理する、あるいは、世界の時間帯の異なる複数の拠点で銀行全体の為替ポジションを交代で管理するなどの対応を行っています。
また東京市場、ロンドン市場などの異なる市場は独立してばらばらに動いているのではなく、例えば東京市場の金融機関は香港、シンガポール、ロンドン市場など海外にある金融機関とも直接取引をしています。
世界の為替市場はお互いに活発に取引をしながら休まず動き続けるダイナミックな市場なのです。


為替相場制度

為替相場制度は、相場変動にどのようなルールでどれだけ柔軟性を持たせるかで何種類かに分類できます。

  <固定性の強い制度>

①ドル化:自国固有の法定通貨を持たず、他の国の通貨を法定通貨として流通させます。一般にはドルであることが多いので、俗に“ドル化(Dollarization)
 と呼ばれます。
②単一通貨導入:ユーロのように複数の国で単一通貨を導入します。
③カレンシーボード制:香港のように、国内通貨発行の上限を保有する外貨準備残高に合わせ、準備通貨と自国通貨の為替相場を固定します。

  <ある程度柔軟な制度>

④バスケットペッグ制:経済関係の深い複数の国の通貨の通貨バスケットを作り、バスケットの価値の変動に合わせて自国通貨を調整するものです。
⑤クローリングペッグ制:インフレ率など特定の経済指標の変化に合わせて為替相場を調整するものです。

 バスケットペッグ制もクローリングペッグ制も、一定期間の変数の変化に合わせて定期的に調整することが多いので、実際の運営は、ペッグのターゲットは
 ある程度幅を持たせることが多く、このためペッグではなくクローリングバンド制などと呼ばれることがあります。

⑥管理変動相場制:特に相場のターゲット算出の方法を持っているわけではありませんが、当局が適宜介入して、為替相場の水準を適切な方向に誘導するもの
 です。適切な方向や適切な水準には、バスケット制のような経済関係の深い他の複数通貨の変動を見たり、内外インフレ格差を見たりしますので、操作の手
 法は違っても何を指標として相場水準や方向性を考えるかという原理に、バスケット制やクローリング制との大きな違いはありません。

  <高い柔軟性を持つ制度>

⑦変動相場制:市場の需給に完全に相場動向を任せる制度です。米ドルを含めて主要通貨で実際にこの制度に徹している国はないと言ってよいでしょう。


為替相場変動の予測~その1:ファンダメンタルズの分析

為替相場の変動は経済活動に大きな影響を与えます。そのため、為替相場動向をいかにして予見するか、多くの試みが行われてきました。為替相場の変動にはどのような要因があり、相場の予想では何がポイントとなるのかをみていきましょう。

  <ファンダメンタルズの分析>

相場変動の経済的要因としてまずあげられるのが「ファンダメンタルズ」で、一国の経済活動や通貨の健全性を示す経済の基礎的条件とよばれています。具体的には、財政収支、経常収支、インフレ率、生産性上昇率、経済成長率、失業率などの指標から確認することができます。
経常収支は一国の財およびサービスの国際競争力や景気動向を反映するものです。インフレ率と生産性上昇率はいずれもその国際競争力に大きな影響を与える指標です。財政収支や経済成長率、失業率は一国の経済の好不調のバロメーターとして重要です。これらファンダメンタルズが為替相場の動きを説明する、という考え方を「ファンダメンタルズ理論」といいます。
ファンダメンタルズ理論には、より健全な経済状況にある国の通貨がそうでない国の通貨よりも価値が将来高くなるという考え方がありますが、これは当然のことです。ただしこの考え方は五年、一〇年と長期的にみれば機能しますが、一年、二年といった比較的短期の相場展開を読むにあたっては、ファンダメンタルズに過度の信頼をおくことは危険です。各国経済のさまざまな事象がいろいろなサイクルを描きながら上下動を繰り返す中で、そのサイクルのずれによる為替相場への影響、さらには重大事件の勃発など、短期的にはファンダメンタルズ通りの相場展開にならない要素が為替相場には数多く存在するからです。


為替相場変動の予測~その2:経済政策

  <経済政策>

一国の経済政策そのものやどのような経済政策が取られるかという市場の予測も為替相場を変動させる要因です。ただ、どの経済政策が為替相場に影響するのかを特定することは困難です。例えば為替相場とは一見関係のなさそうな税制改革も、経済を刺激するようなものであれば為替相場を変動させます。すべての経済政策は、市場参加者にとって為替相場に影響があるか否かの検討対象になっているといっても過言ではありません。そこで、政府がそもそも為替市場に影響を与えることを目的とした政策を列挙しましょう。

①為替介入
 「中央銀行の為替介入」を参照してください。
②市場金利操作
 通貨当局が市場金利の高低をコントロールし、国際資本移動の流れに影響を与えることです。一国の金融政策がその国の通貨相場に与える影響は大きいとい
 えますが、金利の操作は多くの場合、物価の安定ひいては国内景気の調整を主な目的としています。
③法的措置
 資本取引規制や関税・非関税措置などの公的規制・措置は経常・資本取引に付随する為替取引の減少につながり、為替市場に影響を与えます。過度な資本流
 入や自国通貨高を防止するために、新興国を中心にこうした規制が行われる場合があります。


為替相場変動の予測~その3:市場心理要因

  <市場心理要因>

為替相場を変動させる経済的な要因として、最後に市場心理要因があります。相場に関連した事柄に対する市場参加者の判断、予想、期待などを「市場心理」といい、なかでも、相場の先行きに対する見方を「相場観」と呼びます。

①市場心理
 市場心理によって為替相場がどう変動するかは、市場参加者がある指標に対し事前にどう予想していたか、ということがポイントになります。市場参加者の
 予想値はブルームバーグやロイターといった情報ベンダーを通じて前もって知ることができます。例えばアメリカの最新の貿易赤字額について、発表された
 数値が大勢の市場参加者の予想よりも悪いものであれば、ドルは下落を始めるはずです。逆に予想よりも良ければ、ドルは一時的に上昇するかもしれませ
 ん。
 また、その時々の市場において、そもそもどの指標が重視されているのか、ということをつかむことも重要です。例えば先の例で、貿易収支の発表に相
 場がほとんど反応しないことがあります。それは、その時の市場が貿易収支よりも例えば各国通貨の金利水準に注目していたからで、貿易収支で予想外の数
 値が発表されても市場が無視した可能性があります。
②相場観
 市場参加者の相場観がリーズ・アンド・ラグズや投機といった行動を起こし、実需取引から予想される相場とは異なる動きを示すことがあります。
 例えば相場観がドル安で、日本のある輸入企業も同様に予想した場合、この企業はドルが十分下がり切ったと思う時点までドル決済を遅らせることでしょう
 (ラグズ)。こうしたドル買いを遅らせる行動はドル安圧力となり、予想されたドル需給のバランスを崩してドル高になるタイミングを遅らせます。逆にド
 ル高と予想した場合、実際の決済の時期まで待たずに、一年分でも二年分でも、必要となるドルを先物予約の形で早く手当てします(リーズ)。ドル買いを
 早める行動はドル高圧力となります。


為替相場を決めるもの~その1:経常取引

為替相場は外国為替市場における外貨の需給関係で決定されます。この需給関係を形成する基本となる取引が、主に民間部門による実需取引と投機取引、加えて中央銀行といった公的部門による為替介入です。実需取引はさらに、経常取引と資本取引に分けられます。ここでは、経常取引と資本取引がそれぞれどのように為替相場に影響を与えるかを述べます。
(なお為替介入については、後述の「中央銀行の為替介入」をご参照下さい。)

  <国際間の経常取引>

経常取引は、商品の輸出入(貿易取引)やサービスの輸出入に、海外との利子や配当金の受払、海外援助の受払などを含めた取引です。これらの経常取引から成る一国の収支、すなわち経常収支は、その国の国際競争力や内外の景気、インフレといった実体経済の動きに応じて変化します。
日本は1980年代に自動車・電機産業などの国際競争力が強まり、輸出が増加したことから大幅な貿易収支の黒字を計上し、90年代には世界で最大の純債権国になりました。現在は、海外への直接投資および証券投資の積み上がりに伴い増大した投資収益が、経常収支の黒字の過半を占めています。一方、アメリカは1990年代以降貿易収支の赤字が拡大し、今や世界最大の経常赤字国です。
このような経常収支の黒字・赤字は、為替市場における需給に影響します。例えば日本の経常収支の黒字は、外国為替市場でのドルなどの外貨の供給要因となります。貿易やサービスで獲得した多くの外貨は、日本企業が日本国内で使用できるよう外国為替市場で売却され、円に換金されます。外貨が多く売却されることは外貨の供給要因となるので、結果、経常黒字は円高を招きます。
経常赤字の場合は、上記とは逆の需給関係になります。日本企業から支払われる多くの円は、各海外企業の自国通貨に換金されます。外貨が多く購入されることは外貨の需要要因となるので、経常赤字は円安を招きます。

為替相場を決めるもの~その2:資本取引

  <国際間の資本取引>

資本取引には、直接投資、証券投資、およびその他の投資(外貨預金や銀行融資など)があげられます。
直接投資は、日本企業が海外に生産や販売のための現地法人を設立したり、海外企業を買収したりすることを目的に行う投資、また逆に、海外企業が日本に法人を設立したり、日本企業を買収したりするための投資が含まれています。海外への直接投資は、日本企業が海外への投資に充てるために外貨を購入するので、外国為替市場での外貨の需要要因となりますし、海外からの直接投資は海外企業が外貨を売却して円を購入しますので、外貨の供給要因となります。
証券投資は、日本の機関投資家や個人による海外への債券投資や株式投資、逆に海外の投資家による日本の債券や株式への投資を指します。日本の投資家が海外の債券や株式を購入する時は、基本的に円を対価に外貨を購入して債券や株式を買いますので、外国為替市場における外貨の需要要因となります。海外の投資家が日本の債券や株式を買う時は、外貨の供給要因となります。
その他の資本取引では、例えば日本の投資家が外貨の預金を解約すると外貨の供給要因となりますし、企業が外貨を借り入れると外貨の需要要因になります。

以上のように、経常取引と資本取引から生じる外貨の需要と供給が外国為替市場における外国為替相場を決める基本となります。ただ、外国為替相場は動態的なものです。経常取引においても資本取引においても、市場の参加者の思惑が市場の需給に大きな影響を与えることがあります。
先行きドルが高くなると多くの人が予想すれば、ドルの決済時期を早めたり(リーズ)遅らせたり(ラグズ)することで、相場は短期間に急激な変化を示すことがあります。また予想が極端に一方に偏り、為替市場が外貨の買い一色、あるいは逆に売り一色となる場合があります。このような時は、買い手がいないために売りたい人の出す売値だけが落ちていく、あるいは売り手がいないために買いたい人の買値だけが上がっていく、すなわち「気配」だけが変化していくといった現象が生じます。

為替ポジション

外国為替取引によって生じた外貨建て債権・債務の残高は、為替ポジションと呼ばれます。
保有している外貨建ての債権が債務より多い場合は、外貨の買持ちポジション(ロングポジション)を持っているといいます。この状態では、自国通貨高に振れると損失、自国通貨安にふれると利益になります。逆に、保有している外貨建ての債務が債権より多い場合は、外貨の売持ちポジション(ショートポジション)を持っているといいます。この状態では、自国通貨安に振れると損失になり、自国通貨高に振れると利益になります。
外貨建ての債権と債務がバランスして、外貨の買持ちポジションでも売持ちポジションでもなくなる状況は、「スクエアー」であるといいます。スクエアーとは英語で貸借の偏りのない状態を指します。日本において外貨の買持ちポジションが無くなってスクエアーになる例としては、輸出企業が外貨建ての輸出代金を受け取り、これを銀行で円に交換した場合や、企業が外貨預金を円転した場合、顧客から外貨を買った銀行が銀行間市場で反対売買をした場合などが挙げられます。一方、日本において外貨の売持ちポジションが無くなってスクエアーになる例としては、輸入企業が円を外貨に交換して外貨建ての輸入代金を支払った場合や、企業が外貨建て借入れを返済した場合、顧客に外貨を売った銀行が銀行間市場で反対売買をした場合などが挙げられます。

基軸通貨

国際通貨の中でも中心的な地位を占める通貨を基軸通貨といいます。今日では米ドルです。貿易も金融取引もドル建てが多く、各国の外貨準備もドル建てが最大です。
基軸通貨は、通貨価値への信認と利便性の2点について、他の通貨に勝っている通貨が自然にこの地位に着きます。信認と利便性とは、為替相場や金利が予測不可能に乱高下せず、売買したい時、常に取引相手がみつかる安心感があることです。
通貨のこの条件を満たすには次の実態的な要素が必要です。
第1に、その通貨を擁する国の経済規模と金融市場が大きいです。第2に、大きいばかりではなく質も大事です。強さと規律を備えた金融機関が市場参加者の主流を占め、為替相場や金利などの価格形成の透明性が高いです。独立した金融監督者と中央銀行がシステム全体の守護者として存在します。第3に、この体制が誰からも侵略されないで守り通せる強い軍事力を持ちます。こうした多くの条件を満たすのは、今の世界では米国以外ありません。
基軸通貨をひとつ決めると、基軸通貨国以外にも利益があります。A、B、C、Dの4か国がお互いに輸出入をする世界を想定しましょう(通貨もABCDとします)。貿易決済をすべて、各国間の通貨交換で行うとしたら左図のようにA-B、A-C、A-D、B-C、B-D 、C-Dの6通りの通貨交換が起こります。ここでAを基軸通貨として、必ずどの通貨も一旦Aに交換してから他の通貨に交換するとどうなるでしょうか。右図のようにA-B、A-C、A-Dの3通りの通貨交換に集約され、各々の交換量は3倍になります。つまり市場の流動性が増し、全員がこの経済メリットを享受するのです。このため、相対的に条件を満たしている通貨が自然に基軸通貨の地位につくようになります。

                     基軸通貨なしの世界         Aを基軸通貨とする世界

                 >基軸通貨とは

銀行間相場と対顧客相場

外国為替相場には、銀行間市場(インターバンク市場)において銀行など金融機関同士が為替取引を行う際に形成される「銀行間相場」と、それら金融機関が一般の個人や法人など顧客との取引に適用する「対顧客相場」があります。

(1) 銀行間相場
銀行間相場はさらに、売買契約をした外貨を受け渡すまでの期間の違いによって「直物相場」と「先物相場」に分けられます。
直物相場は直物為替取引(後述)で使用される相場で、次の様な形で示されます。
   米ドル/日本円  110.00-110.05
110.00をビッド(bid=買値)・レート、110.05をオファー(offer=売値)・レートと呼びます。これはこの相場を提示した銀行が、1ドル=110円なら買う意思が、または1ドル=110円05銭なら売る意思があることを示しています。
一方、先物相場は先物為替取引(後述)で使用される相場で、1週間、3カ月、6か月などの期間別にビッド・レートおよびオファー・レートが実数で表示される場合があります。実数の表示が無い場合は、代わりに期間別の直先スプレッド(直物相場と先物相場の差)が表示されるので、これを直物相場に加減して算出します。

(2) 対顧客相場
対顧客相場にも「直物相場」と「先物相場」があり、銀行間直物相場と銀行間先物相場にそれぞれ、各金融機関が外国為替取引にかかる手数料や金利を独自に加減して算出します。また対顧客相場は、どの時点の銀行間相場をベースにして算出するかによって、「公表相場」と「市場実勢相場」に分けられます。
公表相場は毎朝午前10時前の銀行間相場をベースに算出され、顧客に発表されます。公表相場はそのまま変わることなく、原則として当日の取引に終日使用されます。尚、当日中に大きな相場変動が起こった場合は、適用の停止や相場の変更が行われます。
市場実勢相場は刻一刻と変化する銀行間相場をベースに、都度算出されます。銀行などのインターネットバンキングではこの相場を使用することが多く、数10秒ごとに変化します。また、顧客との先物為替取引も市場実勢相場をベースに行われるのが一般的です。


金利平価

現在のドル円為替相場が1ドル=112円、3カ月ものの円金利が年利0.01%、同じくドル金利が1.1%の場合、3カ月の先物為替相場を計算すると1ドル=111.70円で(後述「直先スプレッドと先物相場の算出方法」ご参考)、直先スプレッドは30銭(111.70円-112円=▲0.30円)です。これを年率に換算すると0.30×12/3÷112×100=1.07%となり、ドルと円の金利差の1.09%とほぼ一致します。このように金利差と直先スプレッドが一致している状態を「金利平価が成立している」といいます
金利差と直先スプレッドが乖離しているとき、すなわち「金利平価が成立していない」ときはどのようなことが起きるでしょうか。分かりやすくするために、3カ月の先物相場も直物相場同様1ドル=112円だとします。この時に直物で10,000ドル買って年利1.1%で運用すると同時に、3カ月先物の10,000ドル売り予約を行えば、3カ月後には10,027ドルを確実に112.3024万円(112円×10,027ドル=112.3024万円)に換えることができます。為替リスクなしで、円とドルの金利差1.09%だけ、ドルで運用する方が円よりも有利になる(金利差益が発生する)のです。このような状況では、ドルの直物買い・先物売りが活発に行われることでしょう。結果、ドルの直物相場は上昇、先物相場は下落し、直先スプレッドは前述の金利差益を打ち消す水準までドル先安の方向に拡大していきます。この例ではドルの先物相場は112円から111.70円に近づいていくのです。このように、通常は金利平価が成り立ちます。


経常収支の調整

国際収支を構成する項目のうち、経常収支は経済政策を運営するための重要な指標の一つとされ、国際的な政策協調を目的とする国際会議やIMFなどの国際機関でも重要視されています。ある国が経常収支赤字を累積させて経済困難に陥ったり、逆に黒字を累積させ、貿易相手国で保護主義政策が実施されたりする時には、こうした不均衡を是正することが政策的な課題となります。
経常収支不均衡の是正には、主として①為替相場の変更と②国内マクロ経済政策の調整、の2つの手段があります。

① 為替相場が変化すると国内と海外での財の相対価格が変化し、その国の国際競争力に影響を与え、ひいては経常収支に影響すると考えられます。例えばある国が自国通貨の切り下げを実施すると輸出価格は下落、輸入価格は上昇し、経常収支赤字の改善が可能になります。

② 国内景気が過熱し経常収支が赤字となっている場合、中央銀行は金利を引き上げたり、財政支出を削減することによって内需を抑え、輸入を抑制することができます。逆に国内景気が悪く経常収支が黒字となっている場合、金利の引き下げや財政支出の拡大を行うことで内需を喚起し輸入を増やすことができます。

ただし、輸出入が為替相場の変更に敏感に反応するとは限らないこと、また、マクロ経済政策も経常収支の調整だけを目標とすることが難しいことから、実際には経常収支の改善策はそれほど簡単ではありません。


高金利通貨

高金利通貨とは、政策金利(中央銀行が金融政策の手段として操作する金利)など金利水準が高い国の通貨を指します。自国を基準にしてある国の金利が高いか否かの比較になるため、「高金利」の認識は国によって異なります。低金利である日本からみると他の多くの国の通貨は高金利になりますが、一般的には、先進国ではオーストラリア・ドルやニュージーランド・ドル、新興国ではメキシコ・ペソ、トルコ・リラ、南アフリカ・ランドなどが挙げられます。
高金利通貨は高い利回りを享受できる反面、当該国の政治・経済基盤の脆弱性によるリスクも抱えている点に注意を要します。またマイナスの事態が発生すると、その国の株、債券、為替相場などのボラティリティ―(価格変動性)が大きくなりやすい特徴があります。
主なリスクとしては、政治的な不透明性・不安定性、地政学的なリスク、経済成長率の低迷、市場の不完全性、高インフレ、比較的高水準の経常赤字および対外債務などが挙げられ、結果、金利や為替相場の急激な変動につながる可能性があります。
高金利通貨の動向を予測する際には、金利や為替相場の急な変動を念頭におきつつ、その国の政治や経済情勢に注視する必要があります。

購買力平価

購買力平価とは、為替相場は、短期的に様々な要因で振れることがあっても、長期的には二国間の財・サービスの価格が均衡する水準に収束するという理論です。よく使われるのがマクドナルドのビッグマックの価格です。例えば日本で360円、米国で4.7ドルで売られているのであれば、そこから導かれるドル円の購買力平価は360÷4.7=76.59で、1ドル=76.59円です。2015年5月現在の1ドル=120円の円相場は、非常に円安ということになります。
購買力平価は、時系列的な均衡水準の推移を示すこともできます。日米間の価格差が小さい時点を起点として、その後1年のインフレ率が日本が0%、米国が3%だったとしますと、米国の方が通貨価値が3%下落しているのですから、1年後の為替相場も3%ドル安に均衡水準が移ったとみなします。この計算を繰り返して均衡点を連ねていくと、ドル円の購買力平価のグラフが書けます。この線と比べて実際の円相場が割安なのか割高なのか目安がつきます。ちなみに2015年4月時点を見ますと、実勢相場は均衡水準よりかなり円安にあることがわかります。日本は何でも安いと大勢の外国人観光客が来る一因はそこにあります。

                           ドル円購買力平価と実勢相場

                  ドル円購買力平価と実勢相場

国際金融のトリレンマ

「国際金融のトリレンマ」とは1980年代に徐々に認知されるようになった国際金融論上の一説です。一国が対外的な通貨政策を取る時に、①為替相場の安定、②金融政策の独立性、③自由な資本移動、の3つのうち、必ずどれか一つをあきらめなければならないというものです。

①の為替安定をあきらめたのが、今日のほとんどの先進国です。独自の金融政策をとれば必ず内外の金利差が生まれます。この時資本移動が自由ならば、そこに金利差を狙った資本流出入が起こります。どうしても為替相場の変動は起きてしまうのです。

②の金融政策の独立性をあきらめたのがユーロ圏内の国や香港です。自由な資本移動を許しながら為替相場を固定するには、金利差があってはなりません。独自の金融政策をとってはならないのです。このためユーロ圏内の国は、域内金融政策は欧州中央銀行に一任しています。香港の金融政策は米国に追随しています。

③の自由な資本移動をあきらめているのが中国です。為替相場の乱高下は避けたい、でも国内の金融政策の独立性は守りたい。そのために資本移動をある程度制限しなければならないのです。
特別な事情がない限り、経済や金融が成熟した国は、①の為替相場安定の放棄にたどり着きます。それは、短期的な相場の乱高下は、不透明性を高め企業のセンチメントに悪影響を及ぼします。しかし、中長期的に見れば、相場の変動は、各国間のインフレ格差や生産性格差などの実態を反映した均衡点を目指すものだからです。

                            国際金融のトリレンマ

                       >国際金融のトリレンマ

国際収支統計

国際収支統計は、ある期間において、ひとつの国・地域の居住者が非居住者との間で行ったあらゆる対外経済取引を、体系的に記録した統計です。IMFは国際収支マニュアル第6版を2008年12月に公表し、日本の国際収支も2014年1月からこれに準拠して作成されています。
国際収支は以下の3つの収支と誤差脱漏で構成されます。

①経常収支
イ)実体取引である財貨(物)の輸出入およびサービス取引を示す、貿易・サービス収支、ロ)投資の配当金・利子の受払を示す第一次所得収支、ハ)寄付・贈与のような対価を伴わない資産提供があった場合の受払を示す、第二次所得収支の合計です。

②資本移転等収支
対価の受領を伴わない固定資産の提供、債務免除、非生産・非金融資産の取得・処分(例:特許権などの知的財産権、販売権、譲渡可能な契約の取得・処分、大使館あるいは国際機関による土地の取得・処分)の収支です。

③金融収支
居住者と非居住者との間で行われた、債権・債務の移動を伴う金融・資本取引の収支、および外貨準備の増減の合計です。
各取引は複式計上方式、すなわち貸方と借方にそれぞれ計上されます。例えば、ある製品が輸入された場合、製品の輸入は経常収支に、製品の輸入代金は金融収支にそれぞれ計上されます。このため、経常収支+資本移転等収支-金融収支+誤差脱漏=0となります。


国際通貨基金

 国際通貨基金(International Monetary Fund)は第2次世界大戦後における国際通貨体制の構築およびその安定性の確保のため、1944年7月、連合国44ヵ国による米国ブレトン・ウッズ会議にて設立が提案され、1945年12月に設立、1947年3月より業務を開始しました。2018年6月現在、加盟国は189ヵ国にのぼります。
戦後、金・ドル本位の固定相場制が構築されると、IMFは加盟国による為替取引の自由化を推進したり、国際収支の赤字増大によるドルの信認低下への対処にSDR(特別引出権)を創設したりするなど、体制の安定・維持を図ろうとしました。変動相場制に移行してからは、IMFの主な役割は、新興国・途上国への支援や金融危機への対処などへと変化しました。
IMFの責務は「国際通貨制度の安定性の確保」ですが、その方法として、①サーベイランス(政策監視)を通じた世界経済および加盟国経済のモニタリング、②融資を通じた加盟国の国際収支の是正、③技術支援を通じた加盟国の経済政策の立案・遂行能力の向上、の3点が挙げられます。
 またIMFは、支援を受けるための厳しい条件やIMFの融資財源であるクォータ(国ごとに異なる出資割当額)の見直し、SDRの構成通貨の追加など、その組織自体も日々改革を実施しています。


G-20(ジートゥエンティ)

1973年の第1次石油危機およびその後の世界不況への対応を討議するため、当時1人当たりのGDPが大きかった先進5ヵ国(日、米、英、仏、西独)の財務大臣が米国ホワイトハウス(大統領官邸)の図書室に非公式に集まりました。この5ヵ国は「グループオブファイブ」またはG5(ジーファイブ)と呼ばれました。その後、世界経済の諸問題(マクロ経済、通貨、貿易など)に対する政策協調が首脳レベルでも必要との考えから、1975年にイタリアも交えて初の首脳会議(サミット)が開催されました。さらに、1976年にはカナダが加わりG7(ジーセブン)に、1977年からは欧州共同体(EC)(現在のEU)の欧州委員会委員長も参加しています(名称はG7のまま)。1998年からはロシアが正式メンバーとしてサミットに参加したことでG8(ジーエイト)と呼ばれましたが、2014年のロシアによるクリミア併合へのG7諸国の反発から同年以降ロシアのサミットへの参加が停止され、名称もG7に戻りました。
アジア通貨危機を契機に、国際金融についての議論は新興国も含めて行う必要性が高まったことから、1999年、G7の7ヵ国にEU、ロシアおよび新興国11ヵ国を交えたG20(ジートゥエンティ―)財務大臣・中央銀行総裁会議が新設されました。2008年には世界金融危機を受け、首脳レベルでもG20サミットが開催されました。世界全体に占める新興国経済の割合が高まり、また、2009年のG20首脳宣言でG20がG8に代わる「国際経済協調の第一のフォーラム」と位置づけられ、G20の存在感は大きくなりました。しかし政治体制や経済規模が異なる多くの参加国・団体による諸問題への共通の意思形成は難しく、一方で政治体制や所得水準が近いG7は比較的協調行動をとりやすいことから、その存在意義は引き続き重要視されています。
G20財務大臣・中央銀行総裁会議は年数回、G7およびG20サミットはそれぞれ年1回開催されています。主な議題は世界経済、貿易・投資、気候・エネルギー、テロ対策など多岐に及び、2010年以降、労働雇用大臣や外務大臣など各大臣級の会議もG20サミットに向けて開催されるようになりました。
会議の開催にあたり、国際連合(UN)や国際通貨基金(IMF)のような定款や事務局はありません。議長国を、メンバー国が持ち回りで12月より1年間務め、首脳や各大臣級の一連の会議の準備および運営を主導します。


直物為替取引・先物為替取引

外貨の売買を契約した時から、実際に外貨の受け渡し(売買の実行)が行われるまでの期間の長さによって、外国為替取引は直物為替(spot exchange)取引と先物為替(forward exchange)取引の二つに分けることができます。

① 直物為替取引
直物為替取引(以下、直物取引)とは外国為替の売買契約成立と同時に、もしくは成立後二営業日以内に、実際に為替の受け渡しが行われる取引です。受け渡しとは、銀行が取引相手の買った外貨を引き渡して自国通貨を受け取ること、あるいはその逆に取引相手の売った外貨を受け取って自国通貨を引き渡すことです。具体例には、外貨現金の両替、外貨預金の入出金、外貨建て海外送金において依頼者が銀行に自国通貨建ての相当額を払い、銀行が外貨を送金することなどが挙げられます。

② 先物為替取引
一方、先物為替取引(以下、先物取引)とは将来の特定日ないし一定期間後に、契約時に定めた一定条件(為替の受渡場所、通貨種類と金額、為替相場、受渡期日など)で為替の受け渡しを行う取引のことです。先物取引の契約を結ぶことを先物予約の締結といい、実際に為替の受け渡しを行うことを予約の実行といいます。
先物取引が行われる理由は、為替相場の変動に伴う危険を回避するためです。輸出企業は外国の輸入企業と外貨建ての輸出契約を結ぶ際、契約締結と同時に、将来輸出代金が受け取れる期日に合わせて、あらかじめ定めた為替相場で外貨を売り渡す契約、つまり先物取引の売予約を銀行に対して締結しておきます。輸入の場合は逆に、輸入契約時よりも外貨高、自国通貨安が進むと損失を被るので、為替リスクを避けようとする場合は先物取引の買予約を締結しておきます。


直先スプレッドと先物相場の算出方法

直物相場と先物相場の開きを直先スプレッド(スワップポイント)といい、通常、2通貨間の金利差を反映しています。先物相場は直物相場をベースに、直先スプレッドを調整して算出されています。基本的に、金利の高い通貨の先物相場は直物相場より安く(先物ディスカウント)、金利の低い通貨の先物相場は高くなります(先物プレミアム)。例えば、日米金利差は、例外的な時期を除いては常にドル金利の方が高かったので、ドル円の先物相場は、ほぼ常に直物よりも円高・ドル安の水準にあります。繰り返しになりますが、先物相場はその通貨が将来高くなるのか安くなるのかという思惑ではなく、2通貨の金利差から算出した直先スプレッドを直物相場に加減することで決まるのです。

先物相場が決まるしくみをみていきましょう。簡単な計算例として、
為替相場が1ドル=112円
3カ月物の円の金利が年利0.01%
ドルの金利が年利1.1%
運用する円資金を112万円(112円×10,000ドル)とします。
3カ月間、円で運用した場合の元利合計額は、{112万円×(1+0.0001×3/12)}=112.0028万円です。
ドルに換えて運用した場合は{10,000ドル×(1+0.011×3/12)}≒10,027ドルとなります。
ここで円とドルのいずれで運用しても成果が同じになる相場は1ドル=111円70銭(112.0028万円=10,027ドル×Y Y≒111.70円)で、これが先物相場になります。


実質金利

実質金利とは、普段我々が「金利」として捉えているもの(「名目金利」といいます)から期待インフレ率を引いたものです。企業が実際に投資を判断するときの材料となる借入にかかるコストは、この実質金利で計ります。名目金利が5%でもインフレ率が5%の国であれば実質金利はゼロなので、強い借入需要が起こり投資が盛んになります。同じ名目金利が5%でも、期待インフレ率が0%の国なら実質金利は5%となり、借入れや投資が抑制されます。ユーロ導入後の欧州では、インフレ格差を残したまま長期金利がほぼ完全に収斂してしまったため、スペインのように高成長、高インフレ国ほど実質金利が低くなり、さらに投資が起こるということが起こりました。ユーロ圏のこの特徴は今も不変です。

                         ドイツとスペインの長期金利

                  ドイツとスペインの長期金利

実需と投機

為替取引は、それを締結する目的から、実需取引と投機取引の2つに分類されます。
実需取引とは、貿易取引や資本取引などの商取引に裏付けられて締結する為替取引を差します。また先物為替取引など、商取引に起因する為替取引で発生する為替リスクを回避するためのヘッジ(hedge、回避)取引も、広い意味で実需取引といえるでしょう。
一方、投機取引は、為替リスクを積極的に取り込み、利益を得ることを目的として締結する為替取引です。ヘッジファンドや個人による外国為替証拠金取引などの多くは、利ザヤ稼ぎのための投機取引と呼べるでしょう。巨額の資金が取引され、価格が時々刻々変化する外国為替は投機取引の格好の対象であり、実際、為替相場の大きな変動要因となっています。
投機取引の簡単な例を紹介します。先行き円高・ドル安が進行するとの判断から、現時点で先物為替相場にてドルを売る取引を締結し、将来ドルが実際安くなったところでドルを買い戻して、その間の利ザヤを稼ぐというケースです。①20XX年3月1日、同年6月1日を期日とする3カ月先物為替相場が1ドルにつき110円として、この相場で100万ドルの「ドル売り・円買い」の先物為替予約を締結します。②1カ月後の4月1日、実際に円高・ドル安が進み、6月1日を期日とする2カ月先物為替相場が105円になっていたとして、今度はこの相場で100万ドルの「ドル買い・円売り」の先物予約を締結します。③これにより6月1日、「100万ドル売り/1億1000万円買い」と「100万ドル買い/1億500万円売り」の取引が実行され、差し引き500万円が利益(為替差益)になります。

①20XX年3月1日現在、「今後ドル安になるだろう」と判断。
3カ月先物為替相場(6月1日期日):1ドル=110円
締結内容:100万ドルのドル売り・円買い

②同年4月1日
2カ月先物為替相場(6月1日期日):1ドル=105円
締結内容:100万ドルのドル買い・円売り

③同年6月1日、上記①②の先物為替取引を実行。
110円×100万ドル-105円×100万ドル
=(110円-105円)×100万ドル
=500万円の為替差益


資本取引自由化と金融自由化

今日、途上国の金融市場の発展経路として、金融自由化があって次に内外の資本取引自由化を進めるという順序が好ましいとされます。国内の自由な競争環境を作り個々の銀行の競争力を高める。更に監督制度や預金保険制度などを整備して自国の金融システムを強靭にする。その上で資本取引自由化を進めるべきだというのです。これは、資本取引自由化を進めると巨額の資金が流出入するため、それだけ不健全な貸出が積み上がったり、金利や為替相場が急激に変動するリスクが高まるためです。
しかし、今の先進国が発展途上の時代は、資本取引自由化と金融自由化の進め方に明瞭な順番はありませんでした。むしろ資本取引の自由化が先行した面が多々ありました。これは、先進国が発展途上の時代には更にその先を行く金融資産を沢山持った先進国がいなかったため、資本取引を自由にしても今のようにいきなり巨額の資金が流入してくることがなかったからです。
今日の途上国は、それだけ難しい金融自由化、資本取引自由化の舵取りを求められていると言えます。


人民元の国際化

中国の名目GDPは2010年に日本を抜いて世界第2位になり、2015年にはアメリカの約6割、日本の2.7倍の規模にまで達しています。これは1970年代来の改革開放政策が、2000年代に入り、対外貿易がけん引する形で二桁台の高度成長をもたらしたことによるものでGDPの伸長に伴って外貨準備高も着実に膨らんでいきました。
しかし、2008年に米国発世界金融危機が発生すると、中国はそれまで保有を増加させてきた米ドル建ての準備資産が実は価値が毀損するリスクのある資産だったことに気づき、同時に一国通貨である米ドルが世界の基軸通貨の役割を果たす現在の国際金融システムに対して深い疑問を抱くようになりました。
こうした経験を踏まえ、中国は、2009年より経常取引を皮切りに人民元を国際的に利用される通貨に変えていく方向に舵を切りました。まず、国際金融センターとして高度に発達を遂げていた香港の機能を最大限に活用してオフショア市場での人民元流通促進に力を入れ、それと共に世界各国と二国間スワップ協定を締結して公的セクターにおける人民元保有促進やプレゼンス向上を図りました。他方、国内金融改革や国境を跨ぐ資本取引については引き続き急激な変化を避けて一歩一歩着実に規制緩和や自由化を進める道を選びました。
このような人民元国際化の努力の結果、2015年11月に人民元は国際通貨基金(IMF)の特別引出権(Special Drawing Rights, SDR)の構成通貨になることが決まりました。SDR構成通貨は、長らく米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドの4通貨でしたが、2016年10月からこれに人民元が加わります。これにより人民元の国際的なステータスは向上し、世界の公的セクターで準備通貨として採用される機会が増えると見られます。
しかしながら、人民元は今のところグローバル企業や金融機関からハードカレンシーとして認められる通貨にはなっていません。今後、人民元が真の意味で国際通貨となるためには、国際金融市場において人民元がもっと頻繁に利用され、元建て取引が活発化する必要があります。そのためにはオフショア市場での流通促進や公的部門のステータス向上だけでは不十分であり、国内金融市場の更なる改革と国境を跨ぐ資本取引の規制緩和が必要となります。国際金融の世界において中国がその経済規模に見合うステータスを手に入れるためには今後も着実な改革を積み重ねていくことが不可欠です。


世界銀行

「世界銀行グループ」は国際復興開発銀行(IBRD)、国際開発協会(IDA)、国際金融公社(IFC)、多数国間投資保証機関(MIGA)、投資紛争解決国際センター(ICSID)の計5機関で構成され、そのうちIBRDとIDAを合わせて世界銀行(World Bank。以下、世銀)と呼ばれています。IBRDは1944年7月に国際通貨基金(以下、IMF)とともに設立が提案され、1945年12月に設立、1946年6月より業務を開始しました。IDAは1960年に設立されました。世界銀行グループに加盟するためにはIMFへの加盟が条件で、2018年7月現在、加盟国はIMF同様189ヵ国です。
世界銀行グループは2030年に向け、①極度の貧困(1日1.9ドル未満で生活する状態)の撲滅、②繁栄の共有の促進(各国の下位40%の所得層の所得引き上げ)、の2つの目標を掲げています。支援金の財源は、世銀が発行する世界銀行債(IBRD債)および加盟国からの出資金です。
世銀設立の当初の目的は、第2次世界大戦後の戦勝国を中心とした復興援助でした。やがてそれが一段落すると、その役割は途上国におけるプロジェクト単位での長期的な技術・経済的支援へと移り変わりました。一方、IMFの役割も、欧米や日本などによる変動相場制導入後はマクロ経済上の問題を抱える新興国・途上国への経済支援が中心になりました。活動分野が重なるようになったことから、両機関は協約(Concordat)をもとに、年次総会や合同開発委員会など定期的な会合からスタッフレベルの情報連携に至るまで、さまざまな場面における協力体制を構築し、効率的な共同支援を実現しています。


世界経済と主な原油市場

世界の原油市場は北米、欧州、アジア市場に大別されますが、なかでも原油価格の国際的な指標となっているのが、ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYNEX)で取引されるWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエート)の先物相場です。WTIとは米国テキサス州周辺で産出される軽質で硫黄分が少なく、多くのガソリンを抽出できる高品質の原油です。価格決定の透明性の高さや市場参加者の多様さから、WTIの先物市場は取引高、参加者数ともに世界規模を誇っています。
 WTIと同様に国際的なのは、欧州のICEフューチャーズ・ヨーロッパで取引されるBrent(ブレント)です。ブレント原油は北海で産出される良質な軽質油です。ブレントの市場も取引量が大きく市場参加者も多岐にわたりますが、その産出量は減少傾向にあります。
アジア市場では東京商品取引所(TOCOM)で取引されるドバイ原油とオマーン原油(ともに中重質油)の加重平均が価格指標となっています。相対の店頭取引が多いため価格透明性は低く、市場規模は前述の2市場を下回ります。
原油価格の決定要因としては、需給(世界経済動向、季節要因なとを含む)、紛争などの地政学的な問題、在庫、投資資金の流出入などが挙げられます。原油市場は株式、為替市場などと比較して規模が小さいため、原油価格が大きく変動するボラタイルな市場ともなっています。近年はとくに投資資金の流出入により、原油先物価格を通じて原油価格が変動する傾向が強くなっています。
国民生活に欠かせない原油の価格とその変動は世界経済に大きな影響を与えることから、原油の価格指標は世界経済の今後を占う重要な経済指標の1つといえます。


対外資産・負債残高統計

ある国の政府や居住者が他の国に対して貸付を行えば金融資産が増加しますし、非居住者が国内居住者発行の証券を買えばその国の対外負債が増加します。こうした増減についてはフローの国際収支統計に計上されますが、この対外金融資産・負債をある時点でストックとしてとらえたのが対外資産・負債残高統計です。同残高は当該年末時点の時価で評価されます。物価や為替相場の変化による評価替えを別にすれば、その増減は基本的に経常収支の黒字や赤字に対応します。例えば経常収支が黒字であれば、それに見合って対外資産残高が増加するか、対外負債残高が減少します。日本では経常収支の黒字を反映して対外資産が対外負債を上回るペースで増加してきました。対外資産から対外負債を引いた対外純資産は1990年代後半の平均は116兆円でしたが、2010年代前半の平均は319兆円と3倍以上に拡大しました。


中央銀行の為替介入

通貨当局が為替相場に影響を与えるために、自ら自国通貨と特定通貨(通常は米ドル)の売買を外国為替市場で行うことを為替介入、正式には外国為替平衡操作と呼びます。
資本取引に規制があるなど取引の量が限られている通貨ですと、為替介入は比較的効果を上げやすいと言われています。しかし、日本や欧州諸国のように資本取引が自由な国においては、為替介入は簡単ではありません。
例えば、市場参加者の間に、明らかに今の相場はオーバーシュート(経済の実態に合致した均衡水準から外れてしまっている状態)だという懸念がある場合は、均衡水準に戻そうという方向での当局の為替介入は効きやすいと言われています。逆にそれまでの為替相場が均衡水準から離れており、今、均衡水準に向かって相場が動いている時、それに抗して為替介入しても効果は期待できないことが多いのです。
為替介入はまた、為替需給に影響を与えるだけでなく、為替相場水準に対する通貨当局の見方を明らかにするので、市場参加者の予想形成に大きな影響を与えることになります。このため、当局は、為替介入を検討するときは、今の動きが均衡水準から離れたものなのか、それとも均衡水準に向かった動きなのかについて、あらゆる角度から慎重に分析します。実態と乖離した水準に期待を形成させてしまってはいけないからです。
為替介入には、一国のみが行う単独介入と、関係国が協力して行う協調介入があります。協調介入は過去、主要通貨の相場の変動がとりわけ大幅かつ急速であったり、経済の基礎的条件からの乖離が非常に大きいと判断された場合に実施されてきました。
日本における為替介入は、「外国為替及び外国貿易法」の規定に基づき、円相場の安定を目的として行われます。


通貨の国際化

ある通貨が国際化するとは、貿易や金融などの国際取引において、価値尺度、決済手段、支払準備として使われるようになることです。通貨の国際化を進めると、貿易取引において、自国通貨建て決済が広がり輸出入業者の為替リスクが軽減されます。また国際金融取引において、自国の銀行の調達が、潤沢な国内預金や中央銀行の流動性供給があるため有利になります。更に、他国の要人の資産凍結など非常に実効力ある外交手段を持てます。頻繁にあることではありませんが、やられる側からみると、手段を握られているだけで大きな脅威です。
一方で、世界中の投資家がその国の通貨建ての金融資産を持つということですから、金利や為替相場は外国の要因を受けやすくなり、国内の金融政策や通貨政策の運営は難しくなります。時として大量の資本流出入が起こるため、個々の商業銀行がしっかりしたガバナンス構造とリスク管理能力を持ち、金融システム全体としても、盤石な監督体制とセーフティネットを持たなければなりません。
経常取引の過不足を埋めるのが資本取引ですから、両者はコインの表裏のようなものです。貿易決済だけ国際化して、投機筋に振り回される資本取引は国際化しないというのは成り立ちません。もちろん、2010年頃の人民元のように、非常に強い人民元先高観に惹かれて、資本取引における不自由さを承知の上で金融資産として人民元保有が進んだことはありました。しかし、これは長期的に持続可能な国際通貨の姿ではありません。国際通貨には資本取引の自由が伴ってなければなりません。


特別引出権(SDR)

 1950年後半より米国の国際収支の赤字が拡大すると、通貨ドルの信認が低下し、1944年より続いてきた金・ドル本位制が揺らぎ始めました。やがて金およびドルが、国際取引の拡大を支え安定的に供給される国際流動性(国際取引の決済のため必要となる資産)としては不十分、と国際的に議論されるようになりました。そこで国際通貨基金(IMF)は1969年、それらを補完する新たな準備資産として、SDR(特別引出権。加盟国通貨の利用に対する潜在的な請求権)を創設しました。
SDRを使用するためにはIMFに加盟する必要があります。SDRとは、国際流動性を必要とするIMF加盟国がIMFを通じて他の加盟国に請求し、自由利用可能通貨を受け取るための請求権で、IMF協定に定められた特定の状況になると、クォータ(IMFへの出資額)に比例してIMFより配分されます。
SDRの価値は創設当初1SDR=1ドル、または金1/35オンス相当でしたが、1973年にブレトン・ウッズ体制が崩壊したことで、16通貨から成る通貨バスケットとして再定義されました。その後、欧州統合や2016年の中国人民元採用を経て、現在SDRバスケットは米ドル、ユーロ、円、英ポンド、人民元の5つの自由利用可能通貨で構成されています。SDRの価値はこれら各通貨量の価値をそれぞれドル換算したものの合計であり、その値や換算相場は毎日IMFのホームページに公開されています。バスケットの構成は5年ごと、またはそれより早期に、各国の経済状況に応じて見直されます。


ブレトンウッズ体制と崩壊

ブレトンウッズ体制とは、第二次大戦後に米国を中心に作られた、為替相場安定のメカニズムです。1944年、米国にあるブレトンウッズホテルに連合国の代表が集まって決められたので、「ブレトンウッズ体制」と呼ばれています。
これは、第二次大戦の遠因でもあった為替相場切り下げ競争の再発を防ぎ、戦後の復興に欠かせない貿易の円滑な発展のための決済システムを作ろうというものです。基本的には、戦前の金を国際決済手段とする金本位制への回帰ですが、過去と異なる点は、各国通貨と米ドルの交換比率を固定し、ドルだけが金と交換比率を固定するという、ドルを間に挟んだ金本位制です。これを金・ドル本位制と呼ぶこともあります。
金とドルの相場を固定し、ドルと各国通貨の相場を固定するということは、金本位制と実質的には同じと思われるかもしれません。違いは、金本位制では各国間の決済が原則的には金で行われていたのに対し、金ドル本位制ではドルで行われたということです。金は紙の通貨と違って貿易量の増加に従って柔軟に流通量を増やすことが出来ません。近代以降の経済規模の急速な拡大の前に、金を決済手段とする利便性は大きく低下していました。通貨発行量が拡大しやすい一国の通貨、米ドルが金にとってかわったのです。
それならば金・ドル本位制ではなく、ドル本位制にすればいいではないかと思うかもしれませんが、まだこの時代は、国際通貨は、使用者が共通の価値を認める何かしらの物的な担保を持たねばならないとの固定観念から抜け切れてなかったのだと思います。しかし、金の量は増えないのにドルの量は経済回復につれて増えていきます。増えない金を担保に米ドルが増発されるという点にブレトンウッズ体制の矛盾がありました。誰の目にも、ドルの金との交換比率が下落していくのは自明でした。
ニクソンショックによってこの金・ドル本位制が崩れました。各国の通貨価値が、アンカーなく変動相場制を漂うことになったのです。では、国際通貨制度は担保を失ったのでしょうか。その後、主要国政府中銀は、通貨や金融の安定のために共通の金融規制作りやマクロ政策協調に力を注ぎました。この国際協調というソフト・コラテラルこそが、金に代わる国際通貨制度のアンカーとして発展していったのだと思います。


ユーロの光と影~その1:ユーロのプラス効果

ユーロは1999年1月にEU内の11ヵ国で導入された新しい国際通貨です。ユーロ圏諸国は、金融政策の独立性を放棄しても、共通通貨という究極の為替相場安定を選んだわけです。
ユーロを導入する前に、共通通貨のメリットとデメリットは徹底的に議論されました。メリットは、為替の取引コストがなくなり、欧州域内の価格の透明性が高まります。このため、より生産性の高い企業、産業、地域に資本と人材が流れて、全体として欧州経済が強くなるというものです。デメリットは、生産性、インフレ率、景気サイクルなどに格差が発生した時に使える政策手段が限られてしまうことです。最終的には、メリットがデメリットを大きく上回るという期待の下に導入に踏み切りました。
欧州全体のことを言えば、確かに企業の活力は高まりました。中長期的な株価の推移を見れば、明らかに米国に劣らないパフォーマンスを見せています。また、ユーロ圏ひとまとまりで計れば、日米と比べてユーロ圏の方が財政状況が良いのも、民間部門の活力の証左といってよいでしょう。
欧州が、東欧・ロシアなどユーラシア大陸の西半分から中東アフリカに至る大きな地域の、貿易、金融、人材の面での求心力となっているのも、ユーロ導入による一体感の高まりが大きいように思います。もちろん、この求心力がもたらすものの中には難民流入という側面もあるのですが。
ドイツ企業は、それまでのドイツマルク高と永遠に決別し輸出を大いに伸ばしました。ドイツの好調ぶりは、東西ドイツ統一以来の低水準の失業率によく表れています。一方、ギリシャなど南欧諸国にも、国外からの資本流入や建設ブームによる好景気が訪れました。このウィン-ウィンの関係の中に、想定外のデメリットが隠されていました。


ユーロの光と影~その2:欧州域内の過剰な与信拡大と危機の発生

ユーロ圏の中で、2008年の危機が発生するまでに起こっていたことを非常に単純化して言うと、ドイツなど北の国は輸出を伸ばし、ギリシャなどの南欧諸国はそれを消費しました。消費に必要なお金はやはり北の国の銀行が貸し出しました。これ自体、特に問題があるわけではありません。世界には経常収支の黒字国もあれば赤字国もあり、赤字国が黒字国から、赤字を埋め合わせる借入を行なうのは普通のことです。
問題は、借入の金利が低すぎたことです。ユーロの導入は為替リスクを消滅させました。そうなれば、相対的に高い利回りのギリシャ国債は魅力ある投資商品です。ギリシャばかりではなく、イタリア、スペインなどの利回りの高かった国債がユーロ導入前夜に世界中の投資家に買われました。邦銀もこの時南欧国債を相当買っています。このため、南欧諸国の国債の金利はドイツ国債と同じくらい低くなってしまいました。
国債利回りは、その国の貸出金利の基準です。これが下がれば、住宅ローン、自動車ローン、すべての金利が下がります。このためギリシャをはじめとする南欧諸国で借入が大幅に伸び、実力以上に景気が盛り上がりました。景気の山の後にはいつかは必ず谷が来ます。実力以上に高い山の後の谷は非常に深いものとなり、金融危機と国の債務危機に発展しました。
ここまで問題が大きくなると、問題国への財政支援とか、金融再生の共通の基金作りなど、もっと強い統合による政策がないとユーロ圏は成り立たちません。その仕組み作りに苦しんでいるのが今のユーロ圏なのです。財政的な統合を強めた新しいユーロに脱皮するしかありません。さもなければギリシャ問題は繰り返されてしまうのです。

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