当研究所のレポートを地域別、テーマ別に検索することができます

研究所の歩み

IIMAの誕生

財団法人国際通貨研究所(IIMA)は、当時の大蔵省国際金融局の認可を受けた財団法人として1995年12月1日に設立された。その設立の主な目的は、唯一の外国為替専門銀行として横浜正金銀行の伝統を受け継いできた東京銀行が、普通銀行に転換するにあたり、そこに蓄積された知識と経験をもとに、国際通貨、国際金融問題に関して質の高い調査研究を行い、政策提言をすることであった(→設立趣意書寄附行為)。これに加え、広く内外での意見交流や経済社会の展望について啓蒙し、他の調査研究事業の助成をすることも大きな目的のひとつとされた。オフィスは東京三菱銀行第二別館7階(当時)におかれた。

設立直後の1996年4月5日には、アジア主要10か国の通貨当局者を招いて第一回の国際金融シンポジウムを都内のホテルで開催した。アジア版BISの必要性、APECの活用論等などの意見が示され、域内通貨の安定にむけた各国の協調が一層重要になるとの認識で一致した会議であった。また、アジアにおける円の役割の重要性が指摘された。

7月4日には、関係当局、財界、金融関係者など多くの著名な方々を御招きして、開所式が行われた。<行天理事長の記念講演のほか、戦前に横浜正金銀行が業務上の参考および関係官庁等の実務・研究に資するために収集した貴重なコインや中国関東州および清国において横浜正金銀行が発行した正金銀行券の展示を行い、招待客の興味を誘った。

 

こうして、IIMAは、その第一歩を踏み出した(96年作成パンフレット)。

そして、IIMAは、発足以来今日に至るまで、国際通貨、国際金融の諸問題を専門とする調査機関として、以下のようなテーマを主として取りあげてきた。

 

IIMAの研究テーマ

(主な研究テーマ1:単一通貨ユーロ)

発足直後の1996-97年度での調査研究は、折から方向が明確になってきた欧州でのユーロ導入に関する研究で始まった。1996年に「ユーロ―― 国際基軸通貨としての可能性と問題点」と題するNewsletterの発行を皮切りに、欧州通貨統合に関する調査研究を行って、論文やエッセーを発行した。さらに、1997年4月には「欧州通貨統合―ドル・円に挑戦する新通貨ユーロ」をめぐってシンポジウムを行い、一般のユーロに対する関心を先行的に鼓舞した。

さらに、「EMUが企業の活動にもたらす影響について」というフィールド・スタディーを実施し、発表した。これらの研究成果は単行本「欧州単一通貨ユーロのすべて」(東洋経済新報社 1997年6月5日発行)にまとめられ、出版された。

1999年に単一通貨ユーロは、多くの期待を担って、スタートし、順調な発展をとげた。IIMAではその後もユーロについては継続的に研究を続け、2000年以降では、ユーロ導入後の構造改革の問題や東欧へと広がる拡大ユーロなどを取り上げた。2008年には、中東欧に蓄積する金融危機や通貨危機のリスクについての論考、ユーロの将来と展望についての論文も発表した。

最近では、ギリシャ問題に端を発したユーロ危機についても、積極的に調査レポートを発信している。

(主な研究テーマ2:アジア通貨危機とその後の地域金融協力)

一方、IIMAが発足してまだ間もない1997年7月にタイで始まったアジア通貨危機は、戦後の国際金融・経済システムの在り方に疑問符をつきつけ、アジアの為替制度の再検討を促すものであった。そうした問題意識の基づき、1997年12月には「アジアの金融システム安定化をめざして」と題するシンポジウムを開催した。

アジアの為替相場のあり方をめぐり、アジア為替資金市場の発展の道筋、新興国における通貨為替政策のあるべき姿等についての調査研究により多くの時間を割いた。

アジアの通貨安定のために、Framework for Regional Monetary Stabilization構想を幅広く検討したのを皮切りに、アジアの地域金融協力にむけた政策提言や助言をたびたび行い、そのうちの一つ、外務省委嘱「国際経済・金融システム研究会」では、グローバリゼーションと金融革命を背景とした新たな世界の枠組みのなかで、アジアでの通貨危機を克服し再発を防ぐため、段階的に地域協力を進めていくことの重要性を指摘した。

また、アジアの通貨制度に関する議論は、円の国際化についての議論の見直しにもつながった。2000年にかけて財務省に円の国際化推進研究会が設けられ、IIMAが事務局としてとりまとめを行った。

さらに、アジア欧州会合(ASEM)より地域金融協力の在り方についての検討が要請され、IIMAはパートナー各国の関係研究グループによる報告書(2002年9月)の調整・取りまとめを分担した。2000-2003年には、EUの経験をとりいれてアジアの金融協力強化の方策を探るため、ASEMで特別タスクフォースTask Force for Closer Economic Partnershipが設置され、スペインのエルカノ国際戦略研究所(欧州側議長・事務局)とともにIIMAがアジア側議長・事務局を務めることとなった。

同タスクフォースの最終報告書は2004年9月にハノイで開催されたASEM第5回首脳会議に報告され、了承された。同報告書では、アジア諸国のドルへの依存の引き下げとアジアの貯蓄の活用、ASEM内の相互貿易自由化推進やアジア欧州陸橋構想(第二のシルクロード)などが提案された。

アジア通貨危機を経て、アジアの地域金融協力の枠組みであるチェンマイ・イニシアティブ(CMI)やアジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)が進展するなかで、これらに関する調査研究にも主要テーマとして取り組み、政策提言や調査研究レポートを発表した。

2003年に、タイ、ベトナムを中心に債券市場育成にかかわる技術協力を実施した他、その後もアジアの資本市場や債券市場に係る調査研究や技術協力を継続して実施し、アジアの地域金融協力をバックアップした。

2005年には、アセアン事務局より委嘱を受けて、「東アジアの政策協調と政策手段」と題して東アジア各国の為替管理や通貨の非国際化の状況、欧州の経験を踏まえながら、東アジアにおける通貨バスケット制の段階的導入を中心に、将来の域内政策協調のあり方について、具体的な検討、提言を行った。このアジア通貨に関する調査研究は、アセアン事務局からの委嘱を含めて、その後もIIMAの主要な研究テーマとなった。2006年以降も、アジアの地域通貨単位(RMU)を、サーベイランスや貿易決済など実際の使用を行うための方策や可能性について、調査研究を進め、提言としてまとめた。

(主な研究テーマ3:開発経済、その他の分野)

2003年に新たに研究部門として開発経済調査部を立ち上げ、エマージングマーケットや円借款、ODAなどに関する調査活動を開始した。

金融サービスが未発達の中近東、アフリカの銀行セクター調査、海外ドナーや新興ドナーにかかわる調査、本邦の公的資金協力に関する事後評価などに取り組み、日本の公的な海外資金協力を支援してきた。 また、エマージングマーケットと呼ばれる新興国の経済分析に早く注目し、中南米諸国のマクロ経済、中東の経済、資金フローなどの調査を継続して行ってきた。

こうした活動の中で、他に先駆けてイスラム金融、環境金融、金融包摂(Financial Inclusion)など、先進的な分野の調査にも取り組んできた。

IIMAの発展

(10周年記念行事)

2005年はIIMAの創設10周年に当たり、「アジアにおける経済協力の展望」と題する記念のシンポジウムをアジア主要国及び米国のパネリストを招いてアメリカンセンターとともに主催した。また、在京大使館・官庁の経済関係者を招いて地域協力に関するワークショップを開催して意見交換を推進した。

さらに、国際交流に資することを目的として、広くアジア地域で学ぶ学生から地域協力にかかわる論文を集めて記念コンテストを行い、12月山口大学に学ぶMs. Aysun Uyalをはじめとする3名の学生に賞状と賞金を贈呈した。

(ホームページでの情報発信)

IIMAでは、1996年10月にホームページを開設し、このホームページを通じて情報発信、情報公開につとめてきた。しかし、当時はまだインターネットが現在ほど普及しておらず、調査研究レポートの発信は、印刷物を郵便で送る形式が主流であり、ホームページでの公開は限定的なものにとどまっていた。

21世紀にはいり、PCやインターネット環境は飛躍的に発達し、インフォメーションテクノロジーの活用は、IIMAの重要な調査研究、交流、情報発信において不可欠なものとなった。

IIMAでは、公益法人としてより多くの方に当研究所を知っていただき、研究成果を利用していただけるように、ホームページの利便性や視認性の改善、コンテンツの充実をはかってきた。IIMA独自の研究成果は、国際金融トピックス、Newsletter、調査研究論文などに分類されて、一般の方々が誰でも入手できるようにホームページ上に公開している他、毎年開催する国際金融シンポジウムへの参加募集や出版物の紹介など、コンテンツを拡充し、多くの方々にご利用いただいている。

また、2012年4月からは、ホームページデザインを一新するとともに、新たに電子ライブラリーを開設して、だれでも気軽に当研究所の研究成果を利用できるような機能を加えた。

(公益法人への移行)

2008年12月に新しい公益法人制度に関わる法律が施行され、財団法人である当研究所も新しい制度の下での法人形態への移行が義務付けられた。IIMAでは、法律施行直後の2009年初頭に有識者や関係者にお集まりいただき、公益法人移行検討委員会を設け、その後約1年計5回にわたり審議を重ねた。その結果、それまでの財産や事業を継承する形で公益財団法人への移行する方針を決定した。その後、公益法人への移行準備作業を行って、2010年12月に公益法人移行認定申請を内閣府に提出、2011年3月28日付で内閣総理大臣より公益法人への移行認定を受け、同年4月1日に公益財団法人国際通貨研究所となった。

発足以来、公益に資する調査活動を行ってきたIIMAは、公益法人に移行後も従来からの事業(調査研究、情報交流、広報普及啓発)を引き継いだ一方、法人のガバナンスは、新制度に適合するものに変更された。従来の寄付行為に代わって新たに定款が定められた他、理事会、評議員会などの機関、理事、評議員の定数とメンバーなど、新しい法人にふさわしい体制に変更された。

公益財団法人となったIIMAは、多くの方々からご支援をいただき、順調なスタートを切った。公益法人への移行を記念し、2011年11月、1995年12月に発足以来約16年間の研究成果をまとめる形で「世界経済は通貨が動かす」(行天豊雄編著、PHP研究所)を発刊した。