1999年度
1999年度のテーマ
1.円の国際化
近年、円を取り巻く環境に内外で大きな変化が見られ、円の国際通貨としての役割を推進しようという議論が活発化しています。
長年に渡る欧州の悲願の結果として今年国際通貨・金融・資本市場に登場した国際通貨ユーロは、これまでの米ドル一極体制に変化を迫る可能性を秘めております。
このユーロ誕生を目前にして新たな国際通貨体制を模索する動きが出始めていた中、1997年7月のタイバーツ切り下げに端を発したアジア通貨危機は、その発生原因の一つが、米ドルに過度にリンクしたアジア諸国の通貨システムであったこともあり、新たな国際通貨システム模索への議論をより加速させる結果となりました。
既に新たな国際通貨システムへの一歩として、欧州でのユーロの誕生以外にも、米州においては、例えば、アルゼンチンにおけるドル化といった動きも見られます。こうした流れの中でアジアとして打ち出していくべき道は、よりアジア各国と経済的な結びつきが強く経済的規模も大きい日本円を中心とした通貨システム(例えば、日本円の比重を増した通貨バスケットシステム)を築いていくことではないでしょうか。
日本が円の国際化に伴う国際的責任を分担し、円の国際化を推進していくことは、アジアの発展、国際通貨体制の安定に寄与することになり、ひいては日本の安定的な成長に繋がるのではないでしょうか。
既に、円の母国市場である東京金融市場を国際金融市場として強化しようという日本版「ビッグ・バン」の施行などにより円の国際化は推進されてきておりますが、例えば、貿易取引における円の使用率の向上など、尚一層の努力が必要であると考えています。
当研究所では、今後、円の国際化推進に向けた諸問題、諸施策について広く調査・研究を進めていきたいと考えています。こうした調査・研究活動の一環として、当研究所では、大蔵省国際局主催の「円の国際化推進研究会」の事務局を務めております。
(1999年9月)
2.新興国における開発戦略 「資本取引規制のあるべき姿は?」
アジアやラテンアメリカの新興途上国が経済成長を持続するためには、潤沢で安定的な外国資金が流入することが必要です。しかしながら一方で、流入した外国資金が急速かつ大規模に国外に流出したことが、近年のメキシコ、アジア、さらにブラジルの通貨危機の直接の要因であったことも明らかです。こうした問題点に対処するために、例えば、ラテンアメリカでは1991年にチリが外貨資金流入規制を導入し、アジアでは1998年にマレーシアが資本取引規制を強化しております。
当研究所は、新興国における「資本取引政策」に焦点を当て、例えば、上で示したような為替・資本面での流入規制をどう評価したらよいのか、再び通貨危機を起こさないような外貨資金の流入政策はあり得るのか、直接投資がその解決策となるのか、あるいは、受入国の側からはどういった論点があるのかといった問題意識を持ちながら、このテーマに取り組みたいと考えております。
(1999年7月)
3.アジアの金融市場・システムの現状と今後の展望は?
当研究所は、設立以来アジアの金融市場、金融システムに関心を払い、為替資金市場を中心とする金融市場の研究・調査を進めて来ましたが、今年度も引き続きこれを発展させていきます。
アジア通貨危機の原因としては様々な点が挙げられていますが、それぞれについて対策を講じ実行していくことが必要です。
第一には、アジア域内及び各国内の民間資金を最大限活用して域外資金への依存割合を減らし、域外からは良質(長期、域内通貨建て)の資金流入を促進することが必要です。
本年度は、アジア主要国の国内金融市場の現状、特に、各国内の債券市場の現状と問題点、現在取られている改善のための方策を調査します。金融当局の金融調節手法の変化を踏まえ、国債、公共債市場の状況、更に、社債市場にも調査を拡げます。
これらによって、債券市場発展に向けての諸方策を浮き彫りにし、更に、各市場発展のための要件や域内の決済機構のあり方についても検討していきます。
なお、アジア各国の外国為替市場につきましては、初年度より継続的にその実態調査と将来展望を行ってきました。本年度も債券市場を中心に調査を進める中で、その調査を継続したいと考えています。
第二に、マクロ経済政策や為替政策の適否と同時に、各国の金融部門の脆弱性が、アジア危機の重要な原因となり、特に、銀行部門は、危機の深刻化の重要な要因となりました。金融部門の立直しは、短期的に本格的な経済回復の鍵となるだけでなく、長期的にも持続可能な経済成長経路へ復帰するための最重要の課題の1つです。特に今回の危機で大きなダメージを受けた地場銀行は、中核金融機関として、今後の経済活動の重要な鍵を握っていると考えられます。アジア各国の地場銀行について、銀行セクター全体の構造を明らかにし、上中下位行のそれぞれの経営構造の特徴と問題点を検討し、金融部門の今後の課題も探っていきたいと考えています。
(1999年7月)
4.国際通貨ユーロと欧州金融資本市場改革
「ユーロ」は当研究所が設立以来関心を寄せている研究テーマの一つであり、本年度も引き続き、以下の視点から取り組みたいと考えております。
欧州単一通貨ユーロは本年1月に実現したわけですが、このユーロが期待されたように安定した統一通貨として存続しうるのか、また、新通貨としてどの程度の浸透速度で企業間競争を通じた欧州経済の活性化を促し、金融資本市場の拡大・深化につながって行くのか、同時に国際通貨としてどのような役割を果たして行くのかといった諸点に注目して調査を進めたいと考えております。
(1999年7月)
5.外務省研究会「国際経済・金融システム研究会」
1997年にアジアで発生し、世界各地域の発展途上国へ伝播した通貨・金融・経済危機をいかに克服し、将来の再発を防止して行くかについて、金融、貿易、投資、開発という国際経済の根幹をなす分野から考察し、いかなる国際経済・金融システムを構築していくことが望ましいかを検討して、提言を行うものであります。本研究会は、昨年度に引き続き行っております。
(1999年4月)